在宅医療をやっていると、様々な患者に出会う。
病院で出会う患者も様々なだけど、病気が主語になりやすい病院では、病気の種類によってまず患者は分類されまとめられる。
でも、生活が主語の在宅医療の現場では、同じ病気だから、という理由で同じように扱われることはない。当たり前だけど、1人として同じ人はいないのだ。まとめようがないから、様々さが際立つ。
同じ病気でも想いは違う、人生は違う、大切なものも、やりたいことも、病気への向き合い方も違う。
だからこそ、まずはその人のことを知ろう、という気持ちで患者さんに出会う。そこが、僕が在宅医療が好きな理由の大きなひとつ。
病気や障害を持っていること=不健康、ではない!
周囲から見たら、重い疾患があるのに。
みんなからしたら、絶対なりたくないような病気を持っているのに。
健康的な人。と出会う。
40代でALS、筋萎縮性側索硬化症のオトノさん。
病気が進行して、首から下は自由に動かすことができない。それでも、マンションの1室で一人暮らしをしている。
寝たきり、はカッコ悪い。という理由と、横になっていて寝返りをうてない方が体が痛い、という理由で、座りきりをしている。夜中も座って寝るのだ。
ヘルパーにサポートしてもらって、お酒も飲むし、タバコも吸う。
若い時はレースにも出場していたほどの車好きの彼の部屋は、車であふれている。ミニカー、カーパーツ、レースのビデオ。
好きなものに囲まれて、自分のペースで暮らしている。ヘルパーにセットしてもらって、見たいテレビ番組が自動でつくので、それを見て過ごしている。
体調が悪い時、入院を勧めたこともあった。
決まって彼は、部屋にあるミニカーを全部持って行って眺められて、お酒も飲めてタバコも吸えて、夜中でも好きなテレビを見れる病院なら、行ってやってもいいよ。と言った。
僕はもう、入院を勧めるのはやめた。
21時頃に、診療という名の雑談を終えて帰ろうとすると
「俺は今から、好きなテレビを見て夜更かしするよ。センセは何するの?」
「あ、今日は電話当番だから、お酒も飲めないし、仕事するかな」
「センセは、不健康な生活してるなぁ」と笑った。
首から下が動かなくて、食事もトイレもタバコも誰かの手を借りているけど、
自分のやりたいことを選んで、決めている彼と話していると
「健康的だなぁ」と思うことが時々あった。
医学部で学んだ「健康」ってなんだっけ、病気じゃないと健康なんだっけなぁ、なんて思っていた。
WHOの定義では、健康とは、
単に疾病や虚弱状態でないことではなく、身体的・精神的・社会的にも完全に良好であること。
体も、心も、取り巻く環境も、完全に良好。ってどんなだろう。よく分からない。
健康ってなんだ?健康って誰が決めるんだろう。
オトノさんの大切な車は、壊れていたけど駐車場に停まっていた。みんなで直して、レース場でもう一度走らせよう、というプロジェクト。サーキット場を借りて、レーサーに運転してもらった。爆音で駆け抜ける車にワーキャー盛り上がるオレンジスタッフを見ながら「みんなが楽しんでくれるのが楽しい」とオトノさんが呟いていた。
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